しまなみ海道のシンボル、WAKKA
世界有数のサイクリングロード「瀬戸内しまなみ海道」(以下、しまなみ海道)の大三島に、サイクリスト向けの総合施設「WAKKA(ワッカ)」があります。宿泊、飲食、サイクルサポートを兼ね備えた白が印象的な風通しのよい建物。しまなみ海道のシンボルの一つとして地元の人にも知られており、サイクリストではない普通の旅行者をも数多く惹きつけています。
地中海風デザインにこだわった、サイクリスト向け総合施設
「日本の誇る多島美は、ギリシャの多島美を連想させます。WAKKA(ワッカ)の設計をしてくれた建築家の方が、ギリシャのリゾートからインスピレーションを得て、そのイメージに私も共感。しまなみにもっとも合う形に設計してくださいました」と株式会社わっか代表取締役の村上あらしさんは応えてくれます。しまなみ街道を走るサイクリスト達の中継地点として、宿泊施設としてコテージとドームテント、カフェでの食事やBBQを提供。サイクリストがリフレッシュできるパッケージも人気です。70kmあるしまなみ海道を楽しみながら走破するには、旅の途中でさっぱりと気分を変えることが大切。シャワーを浴びてウェアを洗濯している間にレンタルウェアで一休み、気分を一新して再びサイクリングに出発できる、というありそうでなかったサービスです。
村上さんのおじいさんは隣の大島の出身で、村上さんも小さな頃から遊びに来ていたそうです。大学生の頃にアフリカなどを放浪し、のちに経済学を学ぶためイギリスへ留学した村上さん。帰国後、民間企業を経て、東京で経営していたネット決済システムのIT企業を、WAKKA設立のために売却しました。世界を見て回り各国のリゾートを体験してきたことで、子供の頃から大好きな場所であった瀬戸内のポテンシャルを改めて強く感じたそうです。
狙いは、世界中からのサイクリストが集う交流の場
観光業に飛び込む形ではあるものの、狙いは国際的な交流の場づくりでした。「しまなみの良さはゆったりとした和の文化に浸れるところだと思うんですが、逆に言うと、エキサイティングではあるけれど、欧米人には気の抜けない日々が続きます。毎日、和食と和スタイルで過ごすのもなかなか大変になってくる。そんな人たちがホッとできる場所を作りたい、と思ったんです」。
2018年に会社を設立し、まずはタクシーの認可を取るところから始め、自転車のニーズに特化したサービスを始めました。船舶免許も取得し、海上タクシー営業も始めています。家系図などから、村上さんは村上水軍の末裔でもあるとか。「そのせいかどうかわかりませんが、海に出ると多少、血が騒ぐ感じがありますね」と笑います。
ツアーのテーマは、「みかん」の島・大三島
2020年に本格始動したWAKKAは、しまなみ海道のど真ん中に位置する大三島にあります。
大三島は、みかんの島。「しまなみ海道の自転車インフラは、オンロードが主体です。そこをあえてオフロードでのサイクリング体験をすることで、車の通らない場所で、今までとは違う景色を見せてあげられるんじゃないかと思いました」と村上さん。ツアーのテーマは「みかん」。瀬戸内海の多島美をバックに、みかんがたわわに実る農道を走り抜けたら、農家の方からみかん栽培にかける話などを聞きながら収穫体験。そして、収穫したみかんを搾ってジュースを作るという、大三島を代表するみかんにトコトンこだわったツアーとなっています。 しまなみ海道には絶景ポイントが数えきれないほどありますが、観光客ではなかなか見つけることができない、みかん畑の間の農道を走り抜けることができるのは、ガイドと一緒だからこそできる体験。島中を走り回り、みかん畑からの景色や走りやすさにこだわり設定されたコースです。
オフロードを走り抜ける爽快感
「安全性の高いオフロード体験です。多少の高低差も標高も、難なくカバーできる電動マウンテンバイクを使用しますから、どんな人でも大丈夫。オンロードはやり遂げたい一心から苦行的なところもありますが、オフロードは短い距離を爽快に、エンタメ感覚で走れます。アドベンチャー気分も盛り込んだ、今までにないツアーです」と村上さん。 しまなみのオンロードが整備された今、マウンテンバイクでしか走れない場所には、未曾有のポテンシャルがあり、面白いツアーの可能性を深掘りしていきたいということです。オフロードでの自転車ツアーを提供しているのは、しまなみ海道でここだけ。みかん農家への知識を深めてもらい、旅行者にとって島が一層魅力的に映るように努力したい。そして、それが地域の底上げに繋がればなお嬉しい、と語ってくれました。