海に恋した第2の人生は瀬戸内クルージング ふるさと竹原に新風を吹きこむ

元刑事が故郷でえがく夢

警視庁で約40年の間、刑事として、主に詐欺・横領・汚職事件などを担当してきた西田勝則さんが、定年退職後の第2の人生として選んだのが、ふるさと広島県竹原でのクルージング事業。「海はいいですね。大好きです」と、夕陽を見つめる西田さんの船に乗ると、どんな瀬戸内海クルーズに案内してくれるのでしょうか。新しく手がけるグランピング事業のお話と共に伺いました。

小笠原で再発見した海の魅力

「せとうちクルーザー」という個人事業を2017年に立ち上げた西田さんは、安芸の小京都と呼ばれる竹原の出身。海は、幼い頃からいつも近くにあったものの、東京で刑事をしていた頃は海に行くのは年1、2回程度。定年退職後は、故郷に戻り「気ままに好きなことをしよう」とだけ決めていました。
何をすべきか考えていた定年を迎える10年前に小笠原警察署に赴任。東京都とはいえ、船で24時間かけてしか行くことのできない島へ、根深い事件解決のために駆り出された西田さん。仕事は忙しいものの地元の人とも仲良くなり、漁船に乗せてもらう機会があったそうです。「よく、地元の漁師さんが釣りに誘ってくれたんですよ。大自然と大海原での釣りは難事件を忘れさせてくれ、すっかり海の面白さに目覚めました」。在職中に船舶免許を取り、退職後に釣り客を乗せることのできる遊漁船を購入されたそうです。

釣り客を乗せるために船を購入

「退職金で船を買いました。釣り客を乗せるための遊漁船業務主任者資格を取得するには実務経験も必要で、先輩の手助けをしたり一人でお客さんを案内したりしたことが何度かありました。すると、魚はいるんだけど釣れないお客さんがいる。そんな事が2,3回続いたんです。お金を頂くのは申し訳ないし、かといって要らないとは言えない。胃が痛くなることもありました」。
これは自分にはむかないとスッパリ諦め、遊漁船は売却。代わりにクルーズ船を購入し、瀬戸内の海で釣りをしたりと趣味でクルーズを楽しんでいました。

のんびりとするはずが一転、クルーズ船ビジネスへ

「クルーズ船で遊んでたら、商工会議所の方から“船を利用したビジネスをやってみたいですか”と声を掛けられました。それが今の事業のきっかけになったんです。本当は、女房とのんびり過ごそうと思っていたんですけどね(笑)」。
お客さんを乗せ瀬戸内の多島美を案内する観光事業をするために必要な、内航不定期航路事業の許認可を取得。お客様が「思い出に残る一日」となるために安全・安心は勿論のこと、ガイドは必要で数々のガイドブックを購入し瀬戸内の島々の特徴などを覚えたそうです。

自由に航路を運行できるのが強み

西田さんが薦める瀬戸内クルージングの代表的なコースは、広島県の通称軍艦島、モンサンミッシェルなどと呼ばれ一般の方は上陸が出来ない島「契島」を船窓から眺めながらぐるりと一周、その後、現在約500羽の野生のウサギが生息する「大久野島」へ上陸する2時間のコース。

とはいえ、これは1つのモデルコースに過ぎず、不定期航路事業の認可をもっているので、プライベート・チャータークルーズや旅行会社からのリクエストされたコースに沿って、船を運行させていきます。

先日も、軍艦島〜多々羅大橋〜大三島(愛媛県)のWAKKAさんで食事〜e-bikeで伯方島までサイクリング〜ドルフィンファームでイルカとのふれあい〜大久野島でウサギとふれあう、という全7時間コースのクルーズを担当。「東京からの外国人の方々をご案内しました。みなさん喜んで頂き私も嬉しかったです」。竹原~尾道〜愛媛県~呉エリア間の瀬戸内の海であれば、自由に運行できるそうです。まさに、瀬戸内海漫遊自在。

グランピング施設を2022年7月にオープン

現在、西田さんは瀬戸内海の絶景を見下ろすことができる地でグランピング施設の建設を進めておられるそうです。
「夢は、絶景の場所に小さなログハウスを建てて女房と2人で過ごすことでした。いろんな場所をみて歩いている中で、とびきり眺めがいい海辺の土地があって、3年間通って4年目に譲ってもらえることに。そこにグランピング施設を建設中で2022年7月に完成予定です」。

故郷・竹原に、新しい風を吹かせる

古くから瀬戸内の交通の要所であった竹原の町は、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている町。ニッカウヰスキーの創業者、竹鶴政孝氏のふるさとでもあり、アニメ「たまゆら」などのロケ地として有名です。竹原を訪れる観光客はいるものの、広島や尾道などに宿泊される方が多く、お客様から「ゆっくりと海を眺めながら過ごせる宿はないですか。」などの声をよく聞きました。そのニーズに答えるために竹原市内でゆっくりと手軽に泊まれる場所を作りたいと考えました。ふるさとの地域活性化に取り組む姿に竹原市、商工会議所など町の皆も応援してくれているそうです。

「竹原は美しい海と歴史的文化が残る町です。そこに新しい風を吹かせるような、楽しい拠点を作って行きますよ」。西田さんのチャーミングな笑顔に会いに是非訪れてみてください。