日本人の美意識が生み出した箔文化を、広島の歴史を伝える建造物の中で体験

世界が注目する、唯一無二の技

広島へ新幹線で到着すると、その待合ロビーの装飾などにも使われている歴清社の箔。世界に誇る日本の箔文化のイノベーターとして、常に新たな試みをつづける歴清社では、箔の魅力をより多くの人に知ってもらうために、歴史や製造工程を知る工場見学と扇子への箔押しがセットになったプランを誕生させました。そのプラン造成に携わったクリエイティブ・ディレクターの金築さんと、営業開発部海外事業部リーダーの藤井さんのお二人にお話を伺いました。

工場は被爆建造物。歴史と人々の思いを継承する、もの作り

日本人の美意識が生み出した箔文化。その繊細な薄さは世界に類を見ず、金箔、銀箔、銅箔、錫箔…使う金属によって色の出方も輝き方もさまざま。極薄の箔は汎用性が高く、工夫次第で箔を押す素材も広がります。

広島県の中心部からほど近い場所にある歴清社の工場は100年以上の歴史が息づく建物。被爆した煙突が今なお残り、被爆建造物にも一部指定されています。広島の原爆投下地点からわずか2.2キロのエリアにあるため、爆風により少し高さが低くなった煙突や、かつて危険物を入れておくために頑丈に造られていたことで爆風にも耐えたモルタル製の格納庫、近くで被爆した小学校の講堂を移築した作業場など。今も現役として使われるそんな建造物を案内してもらい製造工程を見せてもらうことから、体験プランは始まります。

「被爆物でできた建物を、メンテナンスを繰り返しながら使っています。もの作りは、いろんな人達の思いや歴史を継承しながら取り組んでいくことだと考えています」。

体験プランで歴清社を訪れると、営業開発部海外事業部リーダーの藤井育代さんが館内を案内してくれます。効率面から言うと決して使いやすいとは言い難い建物ですが、もの作りに携わるヒロシマの会社として、歴史を語る建物を箔の文化と共に大切に守っていこうとしています。

箔の用途を広げたイノベーターであった創業者

それまで高価で手に入りづらい本金の箔を使った屏風を、一般の人でも購入しやすいように、洋金箔と呼ばれる真鍮製の箔を使った金紙を開発したのが、歴清社の創業者久永清次郎。代々、刀剣商を営む家系でしたが、1876年の廃刀令に伴い屏風商に転向しました。京都からの屏風は高価で入手困難だったこともあり、接着剤などの材料の試行錯誤や実験を10年以上繰り返すことで、金箔をつかった金紙のように変色しない洋金箔製の箔押し紙を開発。それまでの約10分の1程度の価格で、金紙が作れるようになったそうです。まさにイノベーターというべく、手軽に箔を使える技術が誕生したことで、箔の用途は広がりを見せていきました。

欧米人が気づき、日本へと逆輸入された箔の美しさ

「空気と水以外なら箔押しができると、歴清社では考えています」。箔のこと、箔がどんな所に使われているか、会社の歴史、製造過程などを分かりやすく説明してくれます。

それまで屏風や、襖、仏壇などに使われるだけだった箔の魅力に、初めに注目したのは欧米の名だたる一流ホテル達。ロビーなどを、箔を大胆に使った美しいデザインで飾りました。それを1964年開催の東京オリンピックの視察のために、欧米各国を訪れた日本の視察団が逆輸入する形で日本で壁紙といったインテリアとしての使い方も広がっていきました。

今でも歴清社のインスタグラムは、海外のフォロワーがかなりの数を占めており、自宅にいる時間が増えたコロナ禍においては、アメリカなど海外の個人宅用の注文も大幅に増えたそうです。

自分でつくる世界で一つだけの扇子

工場内の見学が終わったら、クリエイターから箔について学びながら扇子に箔を貼っていきます。その体験に使われる扇子は、骨組みのない、まったく新しいデザインのもの。広島県立美術館の売店でも扱われています。

「せっかく歴清社で体験していただくのなら」と、平安時代から1200年以上変わらず使われ続けてきた扇子とは違う、新しいデザインにこだわりました。蛇腹の紙が広がる個性的な形の扇子の上に、選んだ箔で自由に柄を描きながら、世界で一つだけの扇子を作っていきます。

「文化が一回根付けば、やがて伝統となって長く続くことが期待できるのではないかと。そのためにも、体験プラン通じて、箔を身近に感じてもらえたらと考えています」クリエイティブ・ディレクターの金築芳広さんは、45年間箔押し紙の制作に携わった経験をもって、藤井さんと共に体験プランを造成していきました。

この場所を訪れた人だけの特典

そんな扇子の箔押しが体験できる工房には、箔押し紙や、光を受けてキラキラと輝く箔の瓶詰めが所狭しと置かれています。それはまるで宝の山のように、テーブルの上にぎっしり。これらは歴清社が手がけたものの一部ですが、中には60年以上前の箔押し紙も含まれているそうで、歴清社を訪問した人限定で、とてもお得な価格で提供されています。

宝の山の中で、刺激される感性

クリエイター達が真剣な眼差しで携わる製造工程を見学したり、さまざまな種類の箔がほどこされた金紙を見ていると、自分の中のクリエイティブ心がくすぐられ、何か作ってみたくなってきます。人々の思いや歴史がつながる建物の中で、クリエイティブ心が刺激されるひと時。日本独自の箔文化をぜひ体験してみてください。