「一本の映画のように地域を体感してもらいたい」ガイドブックに載っていない場所を自転車で巡る旅


その地域ならではのストーリーを大切に

ガイドブックに載っていない場所を自転車で巡るツアー「sokoiko!(ソコイコ)」を2017年に広島でスタートさせた石飛聡司さん。現在では、広島県江田島や北広島、東京、長崎、島根、奈良でもサイクリングツアーをプロデュースしています。それらのツアーは、その土地ならではの歴史や文化を感じられるもの。「映画にもいろんなジャンルがあるように、その地域ならではのストーリーを一本の映画のように、感じてもらえるよう心掛けています」と語ります。

「ここにしかない」ストーリーを届ける

石飛さんが、アパレル業界から未知の観光業に飛び込み、Uターンした広島でsokoiko!のツアーを始めたのは2017年のこと。幼い頃から自転車に乗って街を探検することが好きだったことや、前職で日本各地に赴任したからこそ気づいた広島の魅力を、もっと多くの人に伝えたいという熱い思いと共にスタートさせました。
「広島を訪れてくれる観光客の大半は平和記念公園と宮島などの有名な場所だけを見て帰ってしまうのを見て、もったいないなと感じていました。地域にはガイドブックには載っていなくても面白い場所はたくさんあります。そんな場所を地元に詳しいガイドと一緒に自転車で巡ったら楽しいだろうなと思って、“ガイドブックには載っていないゲストとつくるオリジナルな旅”に決めました」。

トリップアドバイザー、世界で1%だけのベストオブベストに

人類初の原子爆弾により焦土と化した広島。75年は草木も生えないだろうと言われていた広島が、ここまで復活した姿を体感してもらうことで、人間の強さや街の復興への努力というポジティブな面も感じてもらいたいとの思いを込めつくり上げたピースツアーは平和公園から出発、電動自転車で巡ります。
「原爆投下の3日後に路面電車が復旧した事実に、みなさん驚かれます。焦土と化した広島の街の中で、広島電鉄の路面電車は女学生さんが車掌となり、わずかな期間で動き出しました。それを見た街の人達が前を向くことができ、復興のスピードが速くなったというエピソードがあります。路面電車は今でも広島の人にとっては特別な存在なのです」。原子爆弾が上空で炸裂した地点や、今なお当時の姿を残している市内に点在する被爆遺構などを巡りながら、地元に伝わるエピソードや、ガイドメンバーの祖父母の体験や言葉などを交えながら伝えていきます。
「戦前や戦中、戦後があって今の広島があります。ピースツアーでは、いろいろな話を交えながら、被爆後の広島と今の広島を比べながら巡ります」。一本の映画をつくるように丁寧につくり上げたツアーは、参加者の心に響き、なかには涙を流す人もいるそうです。

sokoiko!のピースツアーは、2019年にはトリップアドバイザーのエクセレンス認証を、2020年にはトリップアドバイザー・トラベラーズ・チョイス、2021年には世界の1%だけのトリップアドバイザー・ベスト・オブ・ザ・ベスト・アワードにも選出されています。

のんびりとした島時間追求の中で誕生したOtsukai

広島ピースツアーの参加者が1000人を超えた2019年、ストーリー性があり感動を生むサイクリングツアーの評判が広がり、他の地域からも声が掛かるようになりました。その一つが広島県の離島、江田島でのツアー造成でした。島内にある4つの港いずれからも30分〜60分で広島港へと行くことができ、陸からもアクセスできる江田島は、広島の人々にとっても身近な瀬戸内の島です。

「ツアーをつくる際には、ストーリーの組み立てのために脚本を書きます。映画のような感覚です。ドラマチックな作品もあれば、静かな作品もあります。江田島は、穏やかな時間が流れる邦画のような感じです。波の音に耳を澄ましたり、狭い通りで挨拶したりと、のんびりとした島時間を味わってもらえるようにをテーマにしました」。
初めに受けた島の印象を大切にして決めたテーマ「のんびりとした島時間」を、どうしたら感じてもらえるかを追求し、ストーリー性にもこだわりながら江田島での自転車ツアーをつくり上げていきました。もっともっと、島の空気感や穏やかに流れる時間を味わってもらいたい、追求していく中で、新しい旅のスタイル「Otsukai(おつかい)」ツアーが誕生しました。

地元の農家を自転車で巡りBBQの食材集め

「現地のガイドさんと話していたら、コロナ禍でもキャンプ場には広島から多くの人が遊びに来ていると。とはいえ市内から車で来れることもあり、食材は自分の家近くのスーパーで買い込んで来ている人が多かった。せっかくここまで来るなら、島ならではの食材を現地で調達してBBQを楽しみたいですよね!」そんな会話から生まれたのが「おつかい」ツアー。地元のガイドに案内してもらいながら、農家の畑を訪れたり、獲れたての海産物を譲ってもらったりしながら、自転車で島を巡ります。

サイクリング中に見える景色にもこだわり、開放的な海沿いの道や急斜面からの眺望、農道を越えると波音が聴こえてくる場所や、おばあちゃんが日向ぼっこしている横を通らせてもらい挨拶を交わしたりしながらの島巡り。それこそ島中の道を自転車で走り回ってルートを決めたそうです。
島を自転車で巡りながら必要な食材が十分に調達できたら、ビーチ沿いのBBQスポットへ。目の前に心地いい景色が広がる、とっておきの場所でBBQをして、今度は胃袋で島を満喫します。

お互いが嬉しい、おつかいの関係

「ツアーを始めてみて一つだけ困ったことがありました。生産者さんに、お金を支払おうとしても“そんなん、いらんわい”と言われてしまうこと。“お金払うなら、やらんで”とまで言われることも。顔馴染みのガイドが案内するからこその嬉しい関係ではあるのですが」。そこで、石飛さん達が思いついたのが、町から欲しいものを予め確認して届けること。島の中心から離れた所に住んでいる方もいるので、生活用品や、お菓子を頼まれることもあります。「“買ってきたよ〜”“ありがとね〜”みたいな感じで。これこそ、本当のおつかいかも知れませんね」と笑います。

第2の故郷のように訪れることができる場所

「買っていったり、買いにいったりする、おつかいの関係って地元住民同士の関係みたいなものですよね。初めて行った場所で、その地域の物を食べて、その地域の人と出会って、その地域の道を走ったら、そこはもう知らない場所じゃない。江田島を第2の故郷のように、いつでも気兼ねなく訪れる関係がつくれたら最高です」。
日常からの離脱感覚、頑張りすぎてる自分を置いてきて、江田島でのんびりとした島時間を味わうサイクリングへ、あなたも出かけませんか。